囲炉裏端から

主として趣味に関わる様々な話題を、折に触れてエッセイや紀行文の形で自由に書いてゆこうと思っています。過去に書いた文章も適宜載せてゆきたいと考えています。

【還暦記念ツーリング。本州・四国の旅】(第68回)
何か不思議な気分なり。何時間か前ここに来た時には、よもやこのやうな展開になるとは夢想だにしてゐなかつた。「何故もう何秒か前に気付かなかったのか。もう何秒か前に気付いてさへゐればぶつからなかつたものを・・・」しかし、考へやうによつては運がよかつたとも言へる。「もしあいつが後何秒か気付くのが遅く、真っ直ぐにぶつかってきてゐたら・・・俺もバイクもあんなもんぢゃすまなかつたらう」「何故他ならぬこの俺がかういふ目に遭ったんだらう・・・他の誰でもないこの俺が・・・特別このやうな目に遭ふやうなよくないことをしたとも思はれないんだが・・・しかも、選りに選って、今日で旅を終はるといふその日に・・・しかし、まあ、逆に途中でなくてよかつたのか。もしこれが旅の途中だつたら・・・」幾ら考へてもわからぬ。謎は深まるばかりである。人間の運命の不思議さ・・・

さうして今。ここに。かういふ状態で、かういふ気持ちで自分がゐる。それが心底不思議でならぬ。人生とは一体何なんだらう・・・今回の旅は、色々な意味で、一生忘れられない旅となるに違ひない。

あかしあ丸乗船。二十三時。心底ほつとする。「今日はほんとまゐつたなあ・・・」

 

七月二十六日()曇り。旅の最終日。本当に最後の最後まで色々なことがあつた・・・

出航、零時五分。「どうやら無事出航したやうだ」そんな気分になる。荷物の片付け、その他で気が紛れる。どこかにまだ重苦しい気分は残ってゐるが・・・

就寝、零時半。間もなく眠る。流石に今日は疲れた。色々なことがありすぎた。

 

【還暦記念ツーリング。本州・四国の旅】(第67回)
 妻に電話す。「いやあ、まゐったわ。バイクぶつけられた」「ええっ、大丈夫なの」「うん。大丈夫だ。怪我も全然たいしたことないし、バイクにも乗って帰れる」「さうなの。よかつたね、たいしたことなくて」やうやく安心しをる。「ああ。全く不幸中の幸ひつてやつだわ」「ほんとさうだよね。帰り、気を付けて来てね」「ああ、わかつた」

父にも電話す。ほぼ同じやうな話になる。「お前は目がわるいからそれだけが心配なんだ。とにかくたいしたことなくてほんとよかつたわ。気を付けて帰って来い」「ああ、わかった。ちやんと気を付けて帰るよ」

子供達全員にメールを送る。一様に「たいしたことなくてほんとよかつた」「気を付けて」と返事を寄越す。両親と家族には心配をかけて申し訳ない気持ちで一杯なり。

 

舞鶴フェリーターミナル。二十二時丁度。三一八、八キロ。

長い長い一日・・・何とも奇妙な展開。「これが旅といふものか・・・」もう真っ暗なり。若者の後に付いてフェリーターミナルへ。「もう大丈夫だから、あんたも帰りなさいや。明日も仕事なんだろ」「はい。今日はほんまにすんまへんでした」「ああ、もういい。起きちまったことはもう仕方ないんで、今後はかういふことがないやうに気を付けてや」「はい」人間万事塞翁が馬、これから先何かいいこともあるだらう。さう思ひ直す。

【還暦記念ツーリング。本州・四国の旅】(第66回)
突然道に投げ出される。一瞬何が起こったのかわからぬ。起き上がる。バイクが右側を下にして転がってゐる。「ああ!やられた!」言ひやうのない重苦しい気分に胸を塞がれる。全身を調べる。出血なし。服の破れなし。右脚に打撲傷あり。痛いが歩ける。意外と冷静な自分を発見する。バイクを起こさうとするができない。「すんまへん。ほんまにすんまへん」若い男が駆け寄って来る。「馬鹿者が!何やつてんだよ。俺は今日がツーリング最後の日で今日のフェリーで北海道へ帰ることになつてるんだ。どうしてくれるんだ」・・・怒りとも困惑ともつかぬ気持ちを抱きながら言葉のやりとり・・・若者と二人でバイクを起こし、すぐ近くのレストランの駐車場に入れる。調べる。バイク後部に垂直に立ってゐるナンバープレートを引っかけられたらしい。あちこちに傷が付いてゐるが、ハンドルは大丈夫のやうだ。エンジンもかかる。何とか乗って帰れさうだ。ほつとする。不幸中の幸ひなり。「何とか乗れさうだけど、外車だから何十万もかかるな。」と若者に告げる。

最初の怒りは大分収まり、一種もの悲しい諦めに心が沈む。通りがかりの子供がこはごはとのぞいて歩き去る。若者の上司二人が来る。「うちの若い者がとんだことをしでかして、本当に申し訳ありません」深々と頭を下げる。二人とも極めて実直さうな、話のわかるエンジニア。「もう起きてしまったことは仕方がないんで、この後のことよろしく頼みますわ」「はい。勿論です。出来る限りのことをさせて頂きます」警察来る。実地検分の後、若者の上司も一緒に病院へ。レントゲン検査、異常なし。警察署にて調書をとられる。再び丁重な詫びの言葉を述べ、二人揃って深々と頭を下げ、立ち去る。若者と夕食。話をすればまともな若者。さつきの上司も含めて、相手がまともだつたのがせめてもの慰めなり。

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