囲炉裏端から

主として趣味に関わる様々な話題を、折に触れてエッセイや紀行文の形で自由に書いてゆこうと思っています。過去に書いた文章も適宜載せてゆきたいと考えています。

ゆつたりと漕ぎ下る。心がのびやかに,はれやかに解き放たれて行く。烏柵舞橋を越えて間もなく、少し流れの速い右カーブで左岸に流され、パドルで川に張り出した小枝をよけようとしたところ、パドルが枝の二股のところに挟まり、思はず手を離す。パドルが流される。最も初歩的且つ最悪の過ちである。手で舟は漕げぬのだ。咄嗟に、今朝終点の公園で拾ったパドル(ダブルパドルが壊れてシングルになったもの)を、念の為積み込んであった事を思ひ出す。直ちに取り出して漕ぐ。暫く行くとパドルがゆつくりと流れてゐる。拾ふ。安心す。天の佑けか。リヴァースストロークで引き返し、方向転換してから再び流れに入る。もう一度、先程のカーブを漕ぐ。今度はうまく本流に乗って漕ぎ切る。間もなく、左カーブ。かなり大きな淀み。カヌーを止め、服のまま泳いだり、写真を撮ったり、何もせずぼんやりと景色を眺めたり・・・水鳥が飛ぶ。静かである。

千歳に着く。妹の家に寄り暫く休む。川下りの終点の公園まで二台の車で行き、自分の車をそこに置く。そして、出発点まで妹の車で連れて行ってもらふ。直ちにカヌーの組み立て開始。四十分程で組み立て終了。長さ四・五メートル、幅八十八センチ、高さ二十七センチの舟に全ての荷物を積み込む。写真を撮ってもらふ。

  うすぐもり、あたたかし。十一時近く、第一烏柵舞橋から漕ぎ出す。自由!自然!思はず「川下りだ!」と呟く。澄み切った水が心を洗ってくれる。えも言はれぬ解放感・・・七月に講習を受けたあたりで、練習をしてゐる人に出会ふ。三人ほどと挨拶を交はす。我人ともににこやか・・・水鳥が飛ぶ。何といふ鳥だらう、とは思ふが見当もつかぬ。やはりもつと早くから真面目に野鳥の勉強をしておくのであった、と悔やまれる。

() 千歳川を下る

 斯くしてすべての準備は整った。平成二年八月初旬のある日、千歳川を下ることにした。起床六時、いつもは多少の苦痛を伴ふ早起きも今日は全く苦にならぬ。爽やかな目ざめではある。

 妻と長女に見送られて出発。長男と次女は未だ眠ってゐる。私の他に四人の家族がゐる。私一人の身体ではない。ふとさう思ふ。流石に緊張し、妻や長女に言はれるまでもなく、十分気を付けねば、とこの時だけはまともな父親、理性的な夫としての思ひが心に浮かぶのであった。あれこれと今日の川下りを想像しながら車を走らせる。初めてカヌーに乗ってから約一年、心の中では十分に川下りを楽しんでゐた。川の旅に限らず、旅の楽しみの一つは、その旅を心に思ひ描き、計画し、想像することにある。

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