囲炉裏端から

主として趣味に関わる様々な話題を、折に触れてエッセイや紀行文の形で自由に書いてゆこうと思っています。過去に書いた文章も適宜載せてゆきたいと考えています。

 今日は雨・・・こんな日はしつとりと落ち着いた気分で、クラシック音楽を・・・バッハの「チェンバロ協奏曲第二番」とモーツァルトの「交響曲第四十番」を聴きました。バッハの高貴な抒情とモーツァルトの透明な悲愁・・・

-木の舟、鐵の馬  第三部- 
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(3)午餐

                                  

 時折、水鳥飛ぶ。右岸に道路と「美々川」の標識。更には、「植苗驛」の標識、前方に橋。くぐり抜けると、左岸に野外料理店の大きな看板。生活の匂ひ・・・行き過ぎようとするが、空腹を思ひ出し、遲い晝食を認めることとす。舟を岸に付け、上陸。ウエットス-ツにカヌ-シュ-ズの私を見て、店の小母さんがびつくりしてゐる。久し振りで人に會つた氣がする。どこから來た?美々橋から。どこへ行く?ウトナイ湖へ。何の爲に?景色を眺めて、のんびりする爲に。川下りの途中で人に出會つたときの典型的な問答。一應わかつたやうな顏はしてゐるが、納得はしてゐない。あんたも變はつた人だねえ、といふやうな表情。いつものことだ。前にも下つて來た人はゐましたか、と聞くと、何人かゐたやうな氣もするが、と誠に曖昧な返事。まあ、よからう。取り敢へず飯だ。もう三時近い。客は誰もゐない。御飯とジンギスカンを頼む。何と、御飯はない、とのこと。困つたな、と言ふと、こげが混ざつてゐてもよかつたらある、と言ふ。それで結構、と私。お金は要らない、おにぎりを作つてやらう、と小母さん達。たつた一人でゆつたりと食事。うまい。ジュウスを飲む。うまい。生き返つたやうな心地がする。矢張り疲れてゐたのだ。暫く寛ぐ。ゴルフの話をしながら入つて來た一團が煩わしい。金を拂ひ、礼を言つて店を出る。危ないところだつた。世間のことは、彼らに任せておかう。

 今日から五月。これから暫くの間が北海道で一番いい季節かもしれません。午後から近くの森林公園へ散歩に行って来ました。桜が綺麗でした!

-木の舟、鐵の馬  第三部- 
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(2)水鳥達(続き)


曇り。目の前に障害物。川幅一杯に川魚漁師の仕掛けと思はれる網と細い杭。杭の高さは四、五十センチ程、川幅一杯に數本打ち込まれて、網を支へてゐる。しかも、それが流れの方向に二重(と言ふべきか、二列と言ふべきか)になつてゐる。困惑す。暫くあたりを見回す。左岸には、舟二艘と見捨てられた車一臺。更に樣子を見るが迂回不可能。とすれば、一旦岸に上がつてポ-テ-ジ(舟を擔いで運ぶこと)するしかないか・・・それにしても、思はぬ障害物。まさかこんな所にこんな物があらうとは。一體何がとれるのだらうか。つくづく眺める。どうしよう。少しづつ日が傾いてきた。さうゆつくりはしてゐられない。しかし、まあ、一寸休まう。落ち着いて考へよう。それにしても靜かだ・・・ふと見ると、一か所だけ、網の上端が橈んで水面から十センチ程になつてゐる所がある。或いは、その橈みを利用して、仕掛けを壞すことなく通過できるかも知れぬ。しかし、もし壞してしまつたら・・・この仕掛けには生活がかかつてゐるのかも知れぬ・・・さう思ふと俄には決斷できぬ。パドルで輕く觸れてみる。簡單に橈んで水面に付く。靜かに行つてみよう。靜かにゆつくりと漕ぐ。やうやくのことで網を乘り越える。ほつとする。どうやら仕掛けは無事なやうだ。これでカヌ-乘りの最低限のモラルは保つことが出來た。

-木の舟、鐵の馬  第三部- (7)
(2)水鳥達

                            

 突如、曲がり角に水草のダム。聊か越えるのに難儀す。漕げども漕げども進まぬ。舟が完全に草の上に乘り上げてしまつた。水草にパドルを殆ど垂直に突き刺すやうにして、全力で漕ぐ。やうやくの事で脱出す。流石に疲れた。

 次第に川幅が廣くなる。十メ-トルか、それ以上の所も。左手前方に廣がる廣大な濕原・・・寒々とした秋の氣配。ここには實りはないのか、秋はただ寂しいものなのか・・・鴨が數羽水先案内。何度も先に行つては着水し、近づけば再び飛び立ち・・・生き物がゐることに何となくほつとする。それにしても、何と自由な生き物であることか! 

 世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば       

 さりながら、恐らく、鳥には鳥の憂ひ、木には木の悲しみ・・・水を見る、川を見る、木を見る、草を見る、空を見る。手を休めれば舟は止まる。餘計なことを考へれば舟は曲がる。しかし、假令舟が止まつたからと言つて、曲がつたからと言つて、どうなるものでもない。ただ流されて行かう、流れに身を任せよう。時には、小さな自分を捨てて、大きなものに自らを委ねるのもいいだらう・・・今日の風は今日しか吹かない。

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