囲炉裏端から

主として趣味に関わる様々な話題を、折に触れてエッセイや紀行文の形で自由に書いてゆこうと思っています。過去に書いた文章も適宜載せてゆきたいと考えています。

古い丸木橋。昔の人の暮らしを思ふ。この橋も嘗ては実際に使はれてゐたのだらうか。この辺りではどんな生活が営まれてゐたのだらうか。橋桁の回りに小さな渦が巻いてゐる。「もののふのやそうぢがはのあじろぎにいざよふなみのゆくへしらずも」・・・

 ほどなく、内別川との合流点。川とは言っても、僅かに幅二、三米の小川で、危うく見落とすところであつた。川岸に舟をとめ、歩いてふれあひ公園に入る。日本名水百選に選ばれたと言ふ内別川湧水を飲む。うまい。確かに清らかで冷たい水だ。顔を洗ふ。気持がよい。暫く休み、再び漕ぐ。

次第に空が明るくなってくる。自然と「行く河の流れは絶えずして・・・」といふ文が心の中にうかぶ。長明も或いは、実際に宇治川を船で行き来したときにふとこんなことを思ったのではないか。或いはまた、鴨川の流れをじっと見つめ乍らこんな言葉を呟いたのではないか。そんな風に思はれてくる。

 時折、舟を漕ぐ手を休め、流れに任せる。何もない。自然があるだけだ。川が流れ、舟が流れ、時が流れるだけだ。

水あそび・・・浅瀬で顔を洗ったり、泳いだり、景色を眺めたり・・・川床に手をついて立ち上がらうとすると、、割れた硝子瓶で親指を切った。にじみ出て来る血の赤さが自分を現実に引き戻す。これは人間の作った硝子の瓶だ。さうして誰かがこれをここに放り投げたのだ。清らかな川の水で指を洗ひ、暫く傷口を押へてゐると血が止まった。心無い人間の愚かな行ひを責める気さへ起らぬほど、川は静かで美しかった。舟を漕ぎ出す。ゆつたりと景色を眺めながら・・・

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