囲炉裏端から

主として趣味に関わる様々な話題を、折に触れてエッセイや紀行文の形で自由に書いてゆこうと思っています。過去に書いた文章も適宜載せてゆきたいと考えています。

それから、近づいて眺めたり、さはつたり、考へたり・・・中を覗き込むと鑿の刃の跡が規則正しく刻み込まれてゐる。それは殆ど、意識的に彫られたと言っていいほどの美しさ、見事さであった。

 後日、新聞記事によって偶然わかったのであるが、この丸木舟は、千歳川と豊平川で今年も行はれたアイヌの人々の儀式、「アシリチェップノミ」(新しい鮭迎への儀式)に使われた由緒正しい船なのであつた。それは、アイヌの人々がカムイチェップ(神の魚)である鮭を迎へるための伝統的な儀式なのださうだ。

ふと名案を思ひつく。人間が乗らなければカヌーの喫水線は殆ど水面と同じだ、七月にこの魚道を流された時、障害物は確か二か所位しかなかった。それならば、舟に回したロープをほどいて舟を先に流し、そのロープにつかまって流されて行けばいいのではないか。思ひ切って舟と一緒に流れに身を任せる。見事成功。岸に舟をあげて一休み。ふと見ると、七月にはなかった丸木舟。驚く。一体誰が、何のために、こんな所に…長さ七、八米、幅、高さともに三、四十糎位のまことに見事な舟である。一本の自然木を刳り抜いた素朴にして優雅な芸術品である。自然な曲線、自然な反りが実に美しい。暫し見とれる。

やがて、南長沼用水路取水口に着く。七月の講習はここで落ち込みを身体一つで流される練習で終はった。舟に乗ったままでは越えられぬ。木の骨組みを船体布で覆っただけのこの原始的な舟は、岩や石、コンクリート、鉄などの固く鋭利なものとの接触に極めて弱い。無理は禁物だ。岸に舟を着け下見する。あの時よりもずっと草が繁茂して歩きづらい。ポーテージで迂回することも、ライニングダウンすることも不可能だ。暫くどうすべきか考へる。多少時間がかかっても何とか茂みの中を運搬するか、思ひ切って魚道を舟に乗って漕ぎ下るか、ここで川下りをやめるか・・・ふと名案を思ひつく。

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