今日も「鐵の馬」による旅は続きます。
 
「奧の細道」を行く  -木の舟、鐵の馬  第二部-(5)


 (六) 那須湯本(殺生石、温泉神社)      (第三日)

 

 起床六時。うぐひすの聲にてめざめしこのさはやかさ。朝食。泊まつてゐた異人さん夫婦と一緒。フランス人とのこと。「奧の細道」の旅で外國語をしやべる必要もあるまい、(尤もフランス語は勿論、英語だつてろくに話せはしないのだが)と、黙つて食べる。女主人が、晝食用にと握り飯をもたせてくれる。有り難し。日光の人はみんな親切だ。

 出發七時過ぎ。曇り、丁度よい暑さ。昨日の道を一旦戻る。日光街道杉並木、さはやかな緑。寫眞をとる。一路那須へと向かふ。田舎道を走る。地圖を見ながら走つても、何度も迷ふ。聞かうにもあまり人も歩いてはゐない。いつの間にか、はれ、青空、暑し。緑いよいよ目に眩し。深い山の中・・・ 「芭蕉もこの道を歩いたのだらうか、ここを通つたのだらうか」感無量なり。「芭蕉もこの風景を眺めたのだらうか。芭蕉は一體どんな事を考へながら、思ひながら、この道を歩いたのだらうか。三百年前、今とは随分違ふ風景だつたんだらうなあ・・・」樣々に物思ふ。山の、森の、林の、田んぼの緑が濃い。まぶしい。何といふさはやかな、心豐かな緑! 深々とした日本の自然!