【還暦記念ツーリング。本州・四国の旅】(第56回)
 
「諦めるな!何とかなる!」扉を叩く。反応なし。「ごめん下さい!」大声で叫ぶ。応答なし。ふと横を見ると、インターフォン。ボタンを押す。「はい。何か御用ですか」「熊楠さんの大ファンで、北海道からオートバイで来ました。何とか見せて頂けませんか」この期に及んで最早なりふり構つてはゐられない。「三十分でも構ひませんので何とか見せてもらふわけには行きませんでせうか」「いいですよ。今開けますので、どうぞお入り下さい」これぞ天の助け!「窮すれば通ず」「精神一到何事か成らざらむ」思はず「やつたあ!」と叫ぶ。拳を握りしめて「よしよし、いいぞう!」と呟く。中に入る。終に来た。到頭来た。憧れの南方熊楠記念館・・・

穏やかな表情でそこに立つ、年配の男性。自分より十歳も上だらうか。「まだ暫く帰りませんので、ゆつくり見て行って下さい」何といふありがたいお言葉!何といふ幸運!誰もゐないこの記念館をたつた一人で心行くまで見ることができるとは!「人間万事塞翁が馬」本当に人間何が幸いするかわからぬものだ。「ありがたうございます。本当に助かりました。北海道からわざわざやつて来た甲斐がありました!」「後片付けや今後のイベントの準備もありますので、どうぞごゆつくり」「はい。それではお言葉に甘えて」