すっかり御無沙汰してゐます。何となく慌ただしい日々が続いた上、暫く風邪気味でした。先日、ふと30年ほど前の川旅の記録を読み返し、懐かしさのあまり、連載することにしました。

【川の旅・水の旅】千歳川を下る(1)
(一) 旅様々 

旅に出ると人は本来の自分に戻ることができるやうだ。少なくとも、いつもは気づかぬ新しい自分に出会ふことができるやようだ。然も旅は、人を「自然の中にゐる本来の自分」に戻してくれるとさへ思はれる。

 ここ十年ほどの間に、私は何度か旅に出た。鉄の馬と私が呼ぶオートバイに乗って、この北海道の地を殆ど隈なく旅した。九州のほぼ全域を野宿しながら旅した。さうして、昨年は、「奥の細道」の旅程を忠実に辿るべく江戸から仙台までを旅した。時恰も元禄二年(一六八九)から三百年。いつの日にか。芭蕉が歩いた全行程を辿ってみたいと思ってゐる。それにしても、芭蕉の何たる偉大さ。私は何度も、鉄の馬を降り、芭蕉と同じやうに日本の自然の中をこの日本の足で歩いてみたいといふ衝動に駆られた。歩くことの大きさと深さ・・・土を踏みしめつつ物思ふことの曰く言ひ難きすばらしさ・・・