囲炉裏端から

主として趣味に関わる様々な話題を、折に触れてエッセイや紀行文の形で自由に書いてゆこうと思っています。過去に書いた文章も適宜載せてゆきたいと考えています。

2016年01月

 今日も「鐵の馬」による旅は続きます。
 
「奧の細道」を行く  -木の舟、鐵の馬  第二部-(5)


 (六) 那須湯本(殺生石、温泉神社)      (第三日)

 

 起床六時。うぐひすの聲にてめざめしこのさはやかさ。朝食。泊まつてゐた異人さん夫婦と一緒。フランス人とのこと。「奧の細道」の旅で外國語をしやべる必要もあるまい、(尤もフランス語は勿論、英語だつてろくに話せはしないのだが)と、黙つて食べる。女主人が、晝食用にと握り飯をもたせてくれる。有り難し。日光の人はみんな親切だ。

 出發七時過ぎ。曇り、丁度よい暑さ。昨日の道を一旦戻る。日光街道杉並木、さはやかな緑。寫眞をとる。一路那須へと向かふ。田舎道を走る。地圖を見ながら走つても、何度も迷ふ。聞かうにもあまり人も歩いてはゐない。いつの間にか、はれ、青空、暑し。緑いよいよ目に眩し。深い山の中・・・ 「芭蕉もこの道を歩いたのだらうか、ここを通つたのだらうか」感無量なり。「芭蕉もこの風景を眺めたのだらうか。芭蕉は一體どんな事を考へながら、思ひながら、この道を歩いたのだらうか。三百年前、今とは随分違ふ風景だつたんだらうなあ・・・」樣々に物思ふ。山の、森の、林の、田んぼの緑が濃い。まぶしい。何といふさはやかな、心豐かな緑! 深々とした日本の自然! 

 ここ北海道は毎日のやうに雪・・・「奄美大島、115年振りの雪」、といふニュースに驚きました。南北に長い日本列島の地域による天候の違ひをまざまざと実感させられました。皆様いかがお過ごしでせうか。

  「奧の細道」を行く  -木の舟、鐵の馬  第二部-(4)

適當な店はないものかと思ひながら、暫く走つてゐると、とある店先にオートバイ。夕食。面白い店で、さほど大きくもないのに、土産物など結構置いてある。幾つか買ふ。私の話を聞いて、親切な店の主人が、「奧の細道 三百周年記念」の切手を分けてくれる。近くの小學生が手作りしたといふ、可愛らしい版畫の「花暦」も貰ふ。見も知らぬ人の温かい人情・・・暫く、旅とオートバイの話。これだから旅はやめられぬ。宿のあてがないといふと、丁度いい宿を知つゐるので、と早速電話してくれる。空いてゐた。宿がなければ野宿でも(數年前、やはりオートバイで九州を旅したときには、テントを張って十泊程野宿したので慣れてはゐるのだが)、と思つてはゐたが、折角の紹介なので泊まることにした。そのうえ、山の中にあつて分かりづらいところなので、案内してくれると言ふ。有り難し。主人がオフロードのバイクで先導してくれる。丁重に礼を言つて別れる。今度また日光に來ることがあったら、必ず立ち寄つて久闊を叙さう。宿に入る。若い女性が出てくる。ペンションとかいふ、俺にはおよそ不似合ひな洒落た宿だからか、等と考へる。まさか、雪女ややまんばでもあるまい。後で分かったのだが、この人は、この宿の女主人(いや、ペンションのオーナー)の娘さんで、何と、ここから東京の短大に通つてゐるさうだ。オートバイから荷物を降ろし、やうやく落ち着く。もう八時だ。

 風呂に入つたあと、部屋で手帳に覺え書き。家に電話す。互ひに何事もなく過ごしけりと。今日から手稻の實家にゐる由、安心す。布團を敷き、外を眺める。暗し、日光郊外の森の中なれば。「奧の細道」(自分で書き寫したもの)を讀み、その他の本を拾ひ讀みして、明日の計畫を練り、旅の思ひにふける。中々寢つかれず。

 





















 

 このブログを始めるに際して、「以前書いた文章も適宜掲載して行くつもりです」といふやうなことを書いておきましたが、「適宜」載せて行かうとするとどうも間延びしてしまふやうです。そこで、旧稿については、新たに「文蔵(ふみくら)から・・・旧稿再録」といふ形で、余り間のあかぬやうに掲載して行かうと思ひますので、よろしくお願ひします。
 では、早速 、『「奧の細道」を行く』の続きから。


 「奧の細道」を行く  -木の舟、鐵の馬  第二部-(3)

   (五)日光 (東照宮~裏見の瀧)   (第二日)

 「室の八島」を出發、日光へと向かふ。暮色やうやく濃くなりつつあり。日光街道杉の竝木道、餘りに見事なり。何度か道を間違へながらも、やうやく日光に着く。既に黄昏時先づ、二荒山神社に參拜す。戻る。東照宮寶物館の傍ら、もみぢの大木の側に句碑あり。    芭蕉翁おくの細ミち日光山吟

  あらたふと青葉若葉の日の光

 心靜かなり。感動す。「今度來る時は、芭蕉と同じやうに、初夏、光滿ち溢れるころに・・・」などと、暫く物思ひにふける。杉木立また見事なり。

 

 東照宮を見る。あまりのつつましさ、小ささに驚く。間違つたのではないかと、人に尋ねたほどである。寫眞から想像してゐた大きさ、けばけばしさはない。却つて、親しみさへ覺えた。百聞は一見に如かず、である。

 

 裏見の滝を見る。既にほの暗し。オートバイを降りてから、細く險しい山道を十分以上も歩き、やうやくたどり着く。まさしく深山幽谷、いとも見事なり。甚く心動かさる。大きさはさほどならずも、その嚴しさ、激しさに心洗はるる思ひす。人一人をらず。茫然として見つめるのみ。鬱蒼たる木々また深し。古人も神の瀧と思ひしならむ。既に暗し。歸り道など何か恐ろしきほどなり。途中、時折見える川の流れ、また清冽なり。

 先程の場所まで戻り、オートバイを見たときには、ほつとした。こいつだけが俺の旅の友なのだ。夜。北海道ならもっと暗いに違ひない。
 












 

 昨日の朝、庭の木の上から小鳥の声が聞こえてきました。枝の隙間から覗いてみると、一羽の小鳥が盛んに囀ってゐます。「この冬の最中に彼らはどうやつて生きてゐるんだらう・・・何を食べ、どこで寝てゐるんだらう・・・」本当に不思議でなりません。恐らく先日とは違う小鳥なのでせうが、見てゐる自分は先日と同じやうな思ひに囚はれました。電線に止まってゐる彼らが賢者に見えました。

 二週間ほど前、我が町の「石と地図の博物館」に行って来ました。余り大きな建物ではありませんが、そこに所狭しと並べられた多種多様な石、鉱物、化石、宝石の数々に目を奪はれました。見ても見ても飽きません。何億年も前に地球が生み出したそれらの「子供達」の美しさに見とれるばかりでした。地図や書籍も楽しく興味深いものばかりで時間の経つのも忘れて眺めてゐました。以前から気になってゐたのですが、思ひ切って行ってみて本当によかったと思ってゐます。一緒に行った家内も感激してゐました。機会を見つけてまた行ってみるつもりです。

  

 今日も雪・・・この頃は毎日のやうに降ってゐます。根雪になるのは例年より遅かったやうに思いますが、さてどのくらゐ積もることやら・・・さうして、これから最も寒い時期がやつて来ます。雪に閉ざされる長い冬のその後、やうやく北国の遅い春・・・例によって、こんな日には過去のツーリングの記録でも読み返して・・・といふわけで、

      「奧の細道」を行く  -木の舟、鐵の馬  第二部-(2)

                       

   (三)旅立ち  江戸「採荼庵」  (第二日)

 愈々、「奧の細道」の出發點、採荼庵跡へ向かふ。Aのお蔭で比較的簡單に見つかる。しかし、うつかりすると見落とすほどの小さな碑一つ立つのみ。大都會東京の片隅に、いかにもひつそりと、人知れず立つといふ風情なり。嘗てここはどんな所だつたのであらうか。さう思ふと、不思議な氣がする。三百年の時の重み・・・いささかの感慨無きにしも非ず。寫眞を撮つてもらつた後出發。時に十時半。Aが途中まで付いてきてくれる。

 千住大橋、草加、春日部と北上す。都内澁滯して、なかなか進まず。暑し。エンジンから吹き上げてくる熱氣が益々暑さを募らせる。春日部にて晝食。樣々なる事語り合ふ。Aと別れ、北上す。Aには、本當に世話になった。有り難し。

 家に電話す。約束の時間に電話がないので、心配してゐた由。簡單に状況を話し、喉を潤したのち出發。晴れ、青空、暑し。田んぼの緑目にしむ。

 

   (四)室の八島   (第二日)

 最初の目的地、室の八島へ。地圖を取り出し、おほよその道を確認したあと、一路栃木市へと向かふ。旅に出た、と言ふ氣がしてくる。途中で休憩、道の確認。サイドスタンドを十分に出してをらずオートバイを倒す。やはり、そろそろ昨日今日の疲れが出てくるころか。それにしても・・・すまぬ、俺の不注意で・・・クラッチレバーの傷が痛々しい。もの言はぬオートバイが愛しい。

 氣を取り直し、室の八島を探す。土地の人に聞いても分からぬ。やうやく、何人目かの人が親切に教へてくれたが、生來の方向音痴、どうしても見つからぬ。同じ道を往復したりもした。日がやや傾いてきた。ふと見ると、HONDAの看板。我が車はHONDA CBX-400F、ええいままよ、とばかりバイクを乘り入れる。事情を話すと、豫想以上の歡待。綺麗な女性事務員が冷たいジュースを出してくれた上、詳しい地圖を書いて、親切に説明してくれる。丁重に礼を言ひ、出發。

 

 やうやくのことで、「室の八島」にたどり着く。既に三時を過ぎてゐた。そもそも、ここを「室の八島」と思ひ込んでゐたのが間違ひであつた。ここは「大神神社」であり、その中に、室の八島と呼ばれる小さな八つの祠が祀られてゐるのであつた。「奧の細道」には室の八島と書かれてゐるので、自からもさう思ひ、人にもさう尋ねてきたが、なるほどこれでは土地の人も分からぬはずである。

 

 杉の森、竹の林、緑濃し。未だ嘗て聞かざりしほどの激しき蝉時雨。甚く心動かさる。句とも言へぬやうな句を八句ほど得る。芭蕉の句碑を見る。

  いと遊に結びつきたるけふりかな    芭蕉翁    秋巖書

 古びた社に詣で、室の八島を拜し、再び見事な杉と竹とを眺めながら、暫し茫然とする。耳を聾するばかりの蝉時雨・・・誰もゐない。何も思はない。ふと氣づけば、心のなかで呟きをるのみ。「本當に芭蕉もここに來たのだらうか・・・ここで何を考へ、何を思つたのだらうか・・・あれから三百年・・・」聊かの感慨無きにしもあらず。

 

 

























































 

  

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