囲炉裏端から

主として趣味に関わる様々な話題を、折に触れてエッセイや紀行文の形で自由に書いてゆこうと思っています。過去に書いた文章も適宜載せてゆきたいと考えています。

2016年05月

 今日の森林公園はライラックの香りに包まれてゐました。北海道も初夏の装ひです。

-木の舟、鐵の馬  第三部- 
(14)

 
千歳の驛に着く。丁重に礼を言つて別れる。丁度五時二十分發の札幌行きに間に合ふ。結局、着替える暇がなく、カヌ-ウェアのまま汽車に乘る。靴さへも履き變へてゐない。カヌ-シュ-ズが我ながらをかしい。邪魔にならぬ所にカヌ-を置き、座席に座つて、やうやくほつとする。と、身軆中がだるい。さう言へば、さつきの階段も随分きつかつた。疲れが急に出る。眠い。今日一日を思ひ出すうちに、うとうとする・・・どうやら今日も何とか無事に終はつたやうだ・・・今度こそ歸らう・・・

 

 今日は快晴。森林公園へ藤の花を見に行って来ました。間もなく満開といふ感じでとても綺麗でした。

-木の舟、鐵の馬  第三部- (13)
 
 (6)歸宅

                                 

 バ-ドセンタ-(?)らしき建物が見える。ホテル(或いはユ-スホステルか)のやうなものに近づく。随分と古い。人影。舟を岸に着ける。時に四時二十分。歩いて中に入り管理人と話す。バスの出發時間まであと三十分程。停留所までは、普通に歩いても十分はかかると言ふ。大急ぎで舟を疊み、擔いで歩きださうとすると、丁度バス停の方角から戻つて來て再び出掛けようとする車あり。「どこまで行くんですか」「バス停まで行つて、それからバスで千歳の驛まで行かうと思つてゐるんです」「さうですか。よかつたら乘つて行きませんか」「でも、今向うから戻つて來たばかりでせう。惡いですよ。」「いいえいいんです。晩飯でも食べに、千歳まで出ようかと思つてゐたところなんです。」「さうですか。それぢやあ、お言葉に甘えてさうしようかな。ほんとにすみませんね。」「いいえ、どうせついでですから。」かうして今日も人の情けに助けられた。暖かさに觸れた。 車の中で色々な事を話す。一と月前に會社を止めた横濱の若者。暫くの間、のんびりと旅行をして歩くのだと言ふ。何となく北海道へやつて來たけど、結構寒いし、觀光客も殆どゐないんですね、等とのんきなことを言つてゐる。「どこかいいところありませんか」「今はどこも、ただ寂しいだけですよ。大雪山の方へ行けば、紅葉が見られるかもしれないけど・・・」「さうですか・・・」「今度は夏に是非來て下さい。案内しますから」話してゐるうちに、この人もオートバイが好きだといふことが分かる。北海道へ是非バイクで來たいと言ふ。その時また會へるかも知れぬ・・・人の縁・・・

 今日もまた森林公園へ散歩に行って来ました。ライラックが綺麗でした。馥郁たる香りを漂はせてゐました。咲き残った桜と咲き始めたライラック・・・札幌もやうやく初夏・・・最も美しい季節がやって来たのかもしれません。

-木の舟、鐵の馬  第三部- 
(12)

(5)白鳥達

                                  

 ゆつくりと漕ぐ。ゆつたりと眺める。心行くまで景色を眺める。美しい。白鳥、あちらに一羽、向うにも數羽、彼方にも何羽か・・・「到頭ウトナイ湖に着いた!この白鳥達!」夕日が湖面にきらめいて眩しい。彼方にはうつすらと雲、山脈・・・心にしみじみとした思ひが溢れてくる。手を休めて呆然として見入る。舟が靜かに搖れる。白鳥も波とともに搖れてゐる。名前の分からぬ水鳥が飛んでゐる。

  名にし負はばいざこと問はむ都鳥我が思ふ人はありやなしやと

  近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへおもほゆ

 古人の心が、その旅の心が少し分かつたやうな氣がする。旅は人を、日常の騒がしさ、慌ただしさ、愚かしさから、暫し救ひ出してくれるのかも知れぬ。ふと我に返り、再びゆつくりと舟を漕ぐ。音もなく、彼方の白鳥が飛び立つ。もの言はぬ湖の賢者が・・・

 思つたよりも白鳥は少ない。然し、間近に白鳥を見てゐると、何となく不思議な氣がする。彼等は一體どこから來てどこへと去つていくのか・・・白鳥と水鳥を見ながら、ゆつくりと漕ぐ。夕闇が次第に濃くなりまさる。鳥達もそろそろ塒へと急ぐ頃か。私も帰らう・・・今日の旅もそろそろ終はりだ・・・

 今日の夕方、森林公園へ散歩に行って来ました。八重桜がまだ咲き残ってゐました。とても綺麗で優雅な感じがしました。

-木の舟、鐵の馬  第三部- (11)

美々川に來て本當に良かつた。ふと、さう思ふ。疲れも消え、新たな力が湧く。暮色やうやく濃く、秋の風身に沁む。川が二つに分かれる。右側の本流と思はれる方に入る。水鳥・・・ウトナイ湖が近いのか、流石に色々な水鳥が見える。

 細く(三、四メ-トルか)眞つ直ぐな川の流れ。やうやく「川が流れてゐる」と言ふ感じになる。両岸には高い木々、蔓草。何度かの曲がり角。その度毎に「ここを曲がるとウトナイ湖か」と思ふ。鴨、白鳥、その他の水鳥・・・バ-ドサンクチュアリ・・・ウトナイ湖は近い。目の前に木々の見えぬところが、と思ふ間もなく、川は突然湖に出た。「終にウトナイ湖に着いたのか!?」胸が高鳴る。目の前に廣がる水、波。肌を刺す冷たい風・・・ 

今日は雨。中々初夏の爽やかさがやって来ない・・・今年の北海道の花の季節はまだ遠い先なのか・・・

-木の舟、鐵の馬  第三部- 
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(4)ウトナイ湖へ

                                

 日が傾きつつある。聊か寂しい。川幅が更に廣くなる(二十メ-トル位か)。濕原の樣相愈濃し。白鳥五、六羽に出會ふ。「つひにウトナイ湖に來たか・・・」感激す。ゆつくりと舟を漕ぐ。逃げず。舟を止め、ほんの二、三メ-トル先に白鳥を見る。感動す。暫くの間、見つめる。見飽きない。現実ではないやうな氣がする。(私の目の前にゐるこの鳥は、本當に野生の白鳥なのだらうか・・・何故人を見ても逃げないのだらう・・・それにしても何といふ優雅な鳥だ!)ふと我に返り、思ひ出したやうにカメラを取り出し、寫眞撮る。何となく後ろめたいやうな氣分。再びゆつくりと漕ぐ。鳥を驚かせぬやうに、ゆつくりと靜かに・・・白鳥が飛び立つ。ゆつくりと大きく、しかし力強く、羽搏く。さうして、再び川面に降り立つ。何事もなかつたかのやうに優雅に羽を休める。その傍らを通り過ぎる。逃げず。慌てず騒がず。振り返つて眺める。滑るやうに音もなく水面を泳ぐ姿のえも言はれぬ優雅さ!氣品の高さ!この姿が見られただけでも、今日の川下りはいつまでも忘れられぬものになるだらう。

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