囲炉裏端から

主として趣味に関わる様々な話題を、折に触れてエッセイや紀行文の形で自由に書いてゆこうと思っています。過去に書いた文章も適宜載せてゆきたいと考えています。

2016年07月

【還暦記念ツーリング。本州・四国の旅】(第14回)
 
国上寺を暫く眺め、辺りを歩く。何本もの大木、風情ある池、由緒正しい付属の建物・・・「きつとここへ良寛さまも何度も来られ・・・」暫し物思ひ耽る。戻らうとすると突然の雨・・・近くの大木の下に駆け込む。ふと見れば案内板あり。「大銀杏の御神木」と。雨宿りにうってつけの大木、逞しい大枝。ありがたし。これも何かの縁か・・・不思議な気がする。手を合はせて拝む。心が静かに落ち着いて来る。

    大銀杏見上ぐるや雨滝の如(ごと)

    千年のいのちに守られ雨やどり

    ありがたし神の木銀杏佛の木

雨が小降りになる。「丁度昼飯の時間か。取り敢へず昼飯を食べながら待つとするか・・・」

駐車場に戻り、食堂に入る。客は自分一人。ゆつくりと食べる。うまい。食べてゐるうちに少し空が明るくなる。天の佑(たす)けか・・・俄然元気が出て来る。「さて、そろそろ行ってみようか」

いよいよ五合庵へと向かう。狭い山道、かなり急な坂道。「こんなに狭い、急な道を良寛さまは・・・」下り坂の途中に小さな井戸。「雷の井戸」とあり。「ああこれがあの・・・」感慨深し。

  突然、視界が開ける。「ああ、これだ!五合庵!」到頭来た!感無量なり。

    深い霧の幽かななる水音の

【還暦記念ツーリング。本州・四国の旅】(第13回)

 いよいよ五合庵、国上寺へと向かふ。途中小さな公園のやうな所あり。バイクを停めて見る。

紫陽花や名を知らぬ花が咲いてゐる。微かに雨降る。風情あり。晴れては欲しけれど・・・

残んの紫陽花ありいとも美しく
 
曇り空、時折微雨なれば、雨音と思ひたれど。

   

 いよいよ五合庵、国上寺へと向かふ。途中小さな公園のやうな所あり。バイクを停めて見る。

紫陽花や名を知らぬ花が咲いてゐる。微かに雨降る。風情あり。晴れては欲しけれど・・・

残んの紫陽花ありいとも美しく

 五合庵へと向かふ小さな坂の下に、かなり広い駐車場がある。十二時二十分に着く。生憎の小雨、時折雨・・・「雨か、こりゃまゐったなあ。いつになつたらやむんだ・・・」できるだけ濡れないやうに、駐車場に大きな枝を張り出してゐる大木の下にバイクを停める。暫く考へる。雨は殆どやんでゐる。「この隙に国上寺を先に見て来るか。五合庵まではちよつと遠いやうだし・・・」

    降るもよし晴れもまたよし五合庵

    雨あがり小鳥鳴き初()む国上寺

 


 

【還暦記念ツーリング。本州・四国の旅】(第12回)

良寛さま縁の人々の書またすばらし。当時の人々の教養の深さ、素養の確かさに改めて感嘆す。彼らにとつては、単に当然の嗜(たしな)みにすぎなかつたのであらうが。

最後にもう一度館内を見て回る。名残惜しい。記念のスタンプを捺()し、土産物コーナーに立ち寄つて、良寛さまの文字「一二三」「いろは」の刻印された金属製の栞と『くちずさむ 良寛の詩歌』といふ本を買ふ。

本当に名残は尽きないが未だ先がある。けふのうちに五合庵へ!十一時頃、記念館出発。

五合庵、国上寺、乙子神社草庵を目指して田舎道を暫く走る。と、大きな松の木。何やら看板が立ってゐる。ちょっと行き過ぎたが気になって引き返す。

「夕暮れの岡」とあり。燕市あたりまで托鉢に行った良寛さまが、よくここで休んだ、といふやうな説明が書いてある。暫く休む。松の木を眺め、触り、語りかける。良寛さまもさうしたのだらうか・・・それにしても遠い。記念館からでも丁度五キロ。江戸時代に生きてゐた良寛さまは当然歩くしかなかつたのだから一時間以上かかつたらう。しかもここは五合庵、乙子神社草庵への道の途中だ。ああ、良寛さま!たつた一人で粗末な庵に暮らし、食べ物と言へばこんなに長い道のりを歩いて、僅かばかりの米や野菜を村の人々から頂いて、細々とその命を繋いでゐたのだ・・・胸に迫るものがある。

良寛さんも夕暮れをここに歩みしか

 人っ子一人通らぬやうな田舎道を更に走り、国上山を目指す。道が登りになる。かなりの傾斜。良寛さまもさぞきつかつたらう。途中に左側へ降りて行く細い道がある。小さな看板「乙子神社」。一旦見過ごして少し上まで行き戻る。バイクを停めて歩く。粗末な廃屋が見えてくる。「これが乙子神社の草庵か・・・」余りの粗末さ、荒れやうに胸が詰まる。「こんな粗末な草庵に何年も良寛さまは・・・」右手に乙子神社。参拝した後、再び草庵を見る。言葉なし・・・

    雨の降る時は降るがよく候 雨降り初()

遠くからざーっと言うやうな音。慌てて神社の大木の陰に入る。耳を澄ませば微かに雨音・・・それにしては体が濡れない。地面も木も濡れない。どうやら雨ではなく、沢水の音らしい。朝からの曇り空、時折微雨なれば、雨音と思ひたれど。

    沢音を雨と間違へ雨宿り


 
 

【還暦記念ツーリング。本州・四国の旅】(第11回)

 
「良寛史料館」九時十五分~十時五十分。ここまでの走行距離二十七,六キロ。

九時十五分、やうやく「分水(ぶんすい)良寛史料館」に着く。「やうやく着いた!遂に来た!」思はず心の中で叫ぶ。小声で呟く。バイクを停めるのももどかしく歩き出す。入り口へ向かふ。

史料館前の庭右手には良寛さまの全身像。「間違ひない、ここだ!」と今更のやうに。

  良寛さ!つひにこの地に来たりけり

  良寛さま 思はず叫び手を合はせ

良寛さまの書を一つ一つ、ゆつたりとじつくりと見て歩く。感動また感動、ただ感動あるのみ。何といふおほらかでのびやかでゆつたりとしたこの文字達・・・夢にまで見た良寛さまの書が今自分の目の前にある!何か信じられぬやうな気持ちなり。

  「偶作僧伽(ぎゃ)」、「家在荒村」殊にすばらし!見つめをれば涙にじむ。「吾家有竹林」これまたすばらし!茫然として、それらの書の前に立ち尽くす。見学者ほとんどをらず。何度も行ったり来たりしながら心ゆくまで鑑賞す。誰に遠慮することもなく、何に妨げられることもなく、見続ける。時間が経つのも忘れて・・・

【還暦記念ツーリング。本州・四国の旅】(第10回)

「第四日。七月十七日(水) 曇り」

五時半 起床。朝の行、読書。洗面、シャワーに入り、すつきりする。

娘が目覚め(六時頃)、自転車で仕事に出かける(七時)

七時四十五分、出発。生憎の曇り空なれど心はいやが上にも昂まる。

「さあ、いよいよ良寛さんだ!いよいよ今日こそ良寛さん縁の土地を尋ねるんだ!」心躍り、高

鳴る。まさしく、遠足当日の幼稚園児・・・

信濃川を渡り、今日最初の目的地燕市へと向かふ。流石は日本一長い信濃川、堂々たる大河なり。道が狭い。小さな集落や田んぼの中を抜け、ひた走る。のんびりとした田園風景が続く。如何にも鄙(ひな)びた田舎といった風情・・・心が和む。「燕市」の標識あり。「ああ、到頭燕市だ!」さう思った途端、何と本物の燕が頭の上を飛び去る。感動す!

   燕飛ぶその名の如くかろやかに

何度か道に迷い、人に聞く。燕市分水に入って間もなく、小さな道路標識あり。曰く、

「良寛さま、托鉢中、気を付けてゆつくりと」と。流石は良寛さま縁の地!思はずほほゑむ。

最後に聞いた人がくれた手描きの略地図がすばらしかつた。「ここからはもうすぐなんですけど、結構わかりづらいんですよね」なるほど、そのとほりなり。 

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